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生物毒の科学



「生物毒の科学」(大英自然史博物館シリーズ3)㈱エクスナレッジ 2018年9月1日 発行 

たまたま手に取った本が生物毒の科学である。
遠く記憶をたどると、毒物雑学事典(ブルーバックス)とか医薬品と毒の話(正確な題名は忘失)とか思い浮かぶ。
ブルーバックスは無情にも無機的に毒を分類してみせるが、「生物毒の科学」の著者ロナルド・ジェンナーとイヴァンド・ウンドハイムは読み物として生物毒を提示してくる。それはまるで科学はこうでなければいけませんよ、といっているかのようである。

そのこだわりは、「有毒」という表現からしてブルーバックスとはことなっているのだ。
毒にはポイズンとトキシンという分類がある。
ブルーバックスではポイズンを毒物、トキシンを毒素として訳されている現状を紹介して、その分類はそれほど判然と分かれているわけではないという表現にとどまる。
一方、「生物毒の科学」では、有毒動物からだされる毒液をベノムとよび、ポイズンは人工毒もふくめて総称として使われ、トキシン(毒素)は生物由来だが、ベノムの一成分のこともあれば、ポイズンのこともある、という説明である。

さて、内容をみてみると、
「毒針による注入」刺胞動物の刺胞嚢の説明がふるっている。「簡単に言うと、細胞嚢は毒液でみたされた高圧のカプセルで、そのなかに銛のようなかたちの剣状棘と、裏返しになった管状の刺糸がコイル状にしっかりと巻かれて入っている。刺激をうけると剣状棘がとびだすが、そのスピードはわずか700ナノ秒間に時速0㎞から100㎞に加速する、動物界最速のものであり、銃弾に匹敵する貫通力をもつ」
 この700ナノ秒というのはピンとこないが、1ナノ秒は10億分の1秒なので、1000万分の7秒ということになる。これでもよくわからないが、「スポーツシーン向けのオリンパスデジカメの「CAMEDIA E-100RS」は1/10000秒というシャッタースピードをもつ」ということから考えると、日常的には1万分の1秒単位がいいところなわけで、10万分の1秒とか100万分の1秒などはめったにおめにかからないスピードである。
ところが、生物の器官が微小とはいえ、1000万分の1秒単位の速度を実現しているというのはにわかに信じがたいことではある。これが事実なら動物の実力を再認識しなければなるまい。

つぎに、気になったのは「防腐剤としての毒液」である。
ーー獲物を加工して摂取や消化を助けるために毒液を使う動物もいれば、食べ物を保存するために毒液を利用する動物もいる。
ーーオオベッコウバチは、肉食性だが目が見えず、ほとんど無力な幼虫のために、獲物の動物を生きたまま備蓄食料に変えるのだ。
この仲間として、エメラルドゴキブリバチが紹介されている。ご想像のとおり、ゴキブリを幼虫の食糧に選ぶハチである。
瞠目すべきは、毒をさしてゴキブリを動けなくするばかりでなく、ゾンビ化して巣穴まで歩かせることである。ゴキブリの触覚を引っ張って「こっちだこっちだ」と地面の上を誘導していくというのである。獲物が重すぎて運べないのでそうなったのか、それとも労働生産性を考えているのか、判然としないが、いったい、進化論とはなんだろう?と考え込んでしまう。

「まず、胸部神経節に毒液を注入し、前肢を麻痺させてから、脳内に直接毒液を注入する。そこでハチはゴキブリの触覚を半分ほどに切り落とし、切り口から血リンパ液をちょくちょく味見する。ちょうどいい味加減とみると、ハチはゾンビ化した獲物を巣穴に導いていき、腹部に卵を一個うみつけたのち、巣穴を小石で封印する」

ハチのおどろくべき行動はあのファーブルが「昆虫記」でも詳細に述べているのはご承知の向きもおありだろう。
かれは、べっこうばちとえんまぐも、あらめじがばちと夜盗虫などについて観察記録をのこしているが、ハチによる麻酔施術を詳述しているのは、後者の方である。
「1.じがばちは夜盗虫の頚筋を大あごの湾曲したやっとこでつかむ。差し針は頭と第一関節とを分かつ関節の腹面正中線上、すなわち皮膚の一番うすい箇所に刺される。ハチはいったん獲物からはなれる。
「2.ハチの勝利の痙攣、歓喜の踊り、そして次の攻撃にうつる。
「3.夜盗虫の第二体節をやはり腹面から刺すのだ。ハチが刺すごとにいくらか後方にだんだんと背筋にそうて後退していくのは、なにか漁師が獲物の尺を取っているようである。
「後退するごとに針はつぎの体節に刺される。こうして肢のついた胸部の三体節、肢のないつぎの二体節、偽肢のある四体節が傷つけられる。
「手術はなんの困難もなく行われる。最初の匕首の一撃を見舞われると、夜盗虫はほとんど抵抗しなくなる」
ファーブルがハチの毒液についてどう考えていたのか、神経を傷つけるだけの外科手術と考えていたのか文面から推測するのはむずかしい。

ファーブルはハチの毒液については、とくに記述せず(読んだ記憶がない?)昆虫の毒性という項で概要をのべているが、「生物毒の科学」に匹敵するような記述があるのかどうか、ご指摘を待つところである。

ここで、両著に共通しているのは、ハチが獲物の施術状態を神経質ともいえるほど何回も確認する作業であろう。つまり、獲物が、仮死状態のまま卵がかえって幼虫が内部を食い尽くすまでじっと新鮮なままでいられるか、それを確認しているのである。(ここで筆者は進化論のしくみに思い至ってしまうのだ)--タンパク質の折りたたまれ方の進化論的予測について、ジャック・モノーがいだいた疑問のように。

「生物毒の科学」は毒に関するさらなる興味をそそる書籍といえよう。

ジーガの陽の下に 8

書き下ろしヒロイックファンタジーの通し番号8です。惑星セラインラサードに不時着したリュウジ中尉の冒険ものがたり、その掲載を開始いたしました。前回7からの続きをごゆっくりお楽しみください。



ジーガの陽の下に               宮本宗明著




 全長百五十メートルの細長い楕円形の船体が、浮揚噴射の金属音とともに近寄ってくる。どこかふらふら飛んでいるように見えるのは気のせいだろうか?
 しかし、彼女はふたりのいるところからほど遠くないところに、無事着陸した。
 ぶあついハッチドアが開き、ふたりは意気揚々とのりこんだ。
 サン・アミが、船首の攻撃戦闘員用のブースにすわりこんだ。
「こんなことなら、最初からBeヴェーン号を呼びよせればよかったんだ」
「すまないな。わたしもできるとは思っていなかったものでね」
 リュウジ中尉は操縦士のブースにすっぽりとはまりこんでこたえた。そうして、決まりきった位置につくと、身体中から意欲がわいてくるような気がしてきた。
 カリグール星人は職業意識にかられて、攻撃用計器のチェックをはじめていた。
 操縦士席から天窓をとおして、惑星ゼナス・フェーンの夜空が望めた。
 リュウジ中尉はいつしか瞑想状態になっていた。しずかに眸をとじると、故郷のなつかしい風景がよみがえってくる。
 それは学校であり、レストランであり、寄宿舎であり、こわい顔をした先生であり、そして宇宙軍の特殊訓練の光景であり、共生型宇宙船のPsi操縦士としての専門教習であった。
 だが、その静かな時間はほんの束の間のものでしかなかった。
「見ろ、廃墟に明かりがついたぞ、リュウジ!」
 サン・アミがにわかに緊張してさけんだ。
 リュウジ中尉はモニター画面をだした。今まで死んだように眠っていた廃墟に煌々と明かりがともっていた。どうやら宇宙船がいることに勘づかれたようである。
 かれは、湾曲した操縦士ブースの壁面から接合ジャックをひきずりだし、頭に装着した。そうすると、精神感応なしでBeヴェーン号の脳に直接指令をだすことができるのだ。
 そうしながらもモニターに視線をはせると、手に手に槍や銃をもった青色ゼナス人戦士の群れが廃墟からとびだしてくるのが目に入った。
「攻撃してくるぞ」と、サン・アミが伝えてきた。「こちらも攻撃態勢にうつる。彼女の具合はどうだ?」
〈Beヴェーン号きこえるか? わたしだ〉リュウジ中尉は彼女の脳に直接よびかけた。
〈ええ、よくきこえるわ、リュウジ〉と、共生型宇宙船がかれの脳にむかってこたえた。
〈そうか。ではきいてくれ。船体の恢復にすべてのエネルギーをつかっているきみには申し訳ないが、敵が襲ってきたのだ。もう一度とべるか?〉
〈なぜ、もう一度とぶの?〉
〈エミグラたちとシン・キドカをさがして収容しなければならないからだ〉
〈あの子たちなら大丈夫。ほうっておいても帰ってくるから。それにシン乗組員にはなんぴとといえども、危害はくわえられないわ〉彼女は自信たっぷりにこたえた。
 そのとき、船体にガーンという鈍い音がひびきわたった。青色ゼナス人たちが銃撃してきたのだ。
「おい」と、サン・アミが催促した。「このままでは船体に穴をあけられてしまうぞ。エネルギー防御はつかえないのか」
「だめだ。派手にエネルギーをつかえば彼女は死んでしまうだろう」
〈サン・アミに伝えて〉と、Beヴェーン号がいった。〈地上戦闘用の兵器はスタンバイしたわ。エネルギー防御はだめでも、そのくらいの武器なら大丈夫よ〉
 リュウジ中尉は彼女のけなげなこたえに感銘をうけたが、これまでに地上戦闘などしたことがあっただろうか、といぶかった。いったい、どんな地上戦闘用兵器が装備されているというのだ?
ーーまあ、いいだろう、とかれは思い直し、サン・アミに攻撃準備完了の旨をつたえた。
 念のためきいてみた。「ところで、どんな武器をつかうつもりなんだ?」
「スパイラル光線砲だ」
「なんだ、それは? きいたことがないな」
 リュウジ中尉はききかえしながら、船首サイドを映しだすモニター画面を注視した。おどろいたことに青色ゼナス人の何人かは、十メートルもの長さの槍を宇宙船めがけて投げているではないか!
 そのとき、群れをなしていた戦士たちのどまんなかで、パッと火の玉がさく裂した。効果は激烈で、十数名の青色ゼナス人戦士がふっとんだ。
「今のがスパイラル光線砲か?」
 サン・アミのそっけない「そうだ」という返事が船内通話機からきこえてきた。「みてろよ」
 その声と同時に、ふたたび大きな火の玉がさく裂した。
 今度は、一列になって銃をかまえていた戦士たちがふきとんだ。
 Beヴェーン号の攻撃は、それから数分間断続的におこなわれた。
 廃墟の都市のまわりは、穴だらけの草地となってしまい、青色ゼナス人戦士たちの姿も残り少なくなっていた。
「どうやら、これでおれたちがどんな存在なのか分からせることができたようだぜ」と、サン・アミがいくぶん得意げにいった。
 そのことばもあながち虚勢とはいえない面があった。なぜなら、あれほど勢いのよかったネスメイン王国の勇猛果敢な精鋭たちが、いまではひっそりとしずまりかえり、わずかに残った数名が、こちらのようすをうかがっているだけになっていたからだ。
〈敵機、来襲!〉と、Beヴェーン号がリュウジ中尉の脳に直接語りかけてきた。
 かれは即座に反応した。
〈モニターに映せ〉
 ふつうなら、そのひとこで敵宇宙船の詳細なデータがスクリーンにでてくるところであった。 
 かれは、歴戦の勇士だったから、当然、敵ザイジドウエル軍の艦隊を連想してしまったのだ。
 Beヴェーン号がためらっている。
〈だめよ〉と、こたえた。〈ザイジドウエルの宇宙艦ではないわ。みたこともないおかしな機体なの。直接あなたの目でみて判断してね〉
 スクリーンに流線形の機体がうつしだされた。
「なんだ、なんだ」と、サン・アミが嬌声をあげた。「ジェット戦闘機かと思ったら、飛行船だぜ、こいつは」
「ネスメイン王国の飛行船だな」と、リュウジ中尉があいずちをうった。
 廃墟の都市の上空五百メートルを数隻の飛行船が遊弋している。全長は五十メートルほどの比較的小型の船体で、舷側にゴム状の浮力調整タンクをつけ、艦橋には王国の旗がなびいていた。プロペラは船首と船尾に一基ずつあり、速射砲が三門搭載されていた。どうやら本格的な戦闘艦ではなく輸送船のようである。
〈こんどは対空戦になりそうだが、戦えるか?〉リュウジ中尉は心配そうな口調でBeヴェーン号にたずねた。
 彼女がこたえた。〈今は飛ぶことはできないわーーたった三キロメートル飛行しただけでもうくたくたよ。でも、このまま地上にいて、あの年代物の飛行船をうちおとすくらいはできるわ〉
 そのとき、先頭にいた飛行船の速射砲が火をふいた。
 

ジーガの陽の下に 7

書き下ろしヒロイックファンタジーの通し番号7です。惑星セラインラサードに不時着したリュウジ中尉の冒険ものがたり、その掲載を開始いたしました。前回6からの続きをごゆっくりお楽しみください。



ジーガの陽の下に               宮本宗明著


 

 そのシン・キドカの身体を下からもちあげているものがいた。みると数匹のエミグラであった。
 リュウジ中尉は念波をおくった。ーー<おまえたち、かれをどうするつもりなんだ?>
 すると、かれの心に念波がおくりかえされてきた。<シン・キドカはわたしたちが協力してBeヴェーン号まで運んでいきます。青色ゼナス人にみつからないように回り道をして・・・・・。あなたがたは一刻も早くBeヴェーン号にもどってください〉
 サン・アミがもの問いたげにリュウジ中尉をみやった。
 かれがサン・アミにエミグラとのやりとりを説明すると、かれは三つの目をまるくして驚いた。これまでエミグラがなにかの役にたったことなど皆無だったからだ。
 ふたりはシン・キドカの運搬をエミグラにまかせることにして、惑星ゼナス・フェーンのふたつの月ーーおおきく明るいトリベランと、ちいさな方のストラトスがうかびあがらせている廃墟の丘に足をむけた。だが、別の見張りがやってくる足音がせまっている。追い立てられるようにして廃墟都市を出たふたりは、そこでBeヴェーン号の方角をめざして黙々とすすむ別の青色ゼナス人の一隊に遭遇した。
 距離はかなりはなれているので気づかれる心配はないようであった。それよりもかれらの戦闘荷役獣ジュウドがあばれださないかが気がかりだった。
 その一隊は月明かりの丘をしずしずと進んでいく。
「青色ゼナス人の部隊だなーーきっとBeヴェーン号を略奪しにいくのだ」サン・アミがささやいた。
 ジュウドはその巨体にもかかわらず、ほとんど足音をたてないで速歩ですすんでいた。青色ゼナス人の部隊はみるみるうちに視界から消えていく。
「わたしたちが、この惑星の低重力を利用して、けんめいになって走ってもかれらを追い越せないな」リュウジ中尉がいまいましげに言った。
「かといって、廃墟にもどって、もう一度ジュウドをあやつれるかどうかやってみるわけにもいかんな」
「そうだ」リュウジ中尉はあっさりとみとめた。
「どうする?」
 サン・アミが鉄面皮にきいた。
「かれらは」と、リュウジ中尉がいった。「Beヴェーン号にどうやって侵入するつもりなのだろう? 昇降ハッチには乗組員の識別コード暗号がしくまれている」
「ハッチを破壊するだろうな」
「だが、操縦はPsiをつかう部分がほとんどだ。宇宙船をとばすことはできない。ということは、かれらの都市へと運んでいくことなどできないわけだ」
「そうだな」と、サン・アミがうなずいた」
 リュウジ中尉がいらだって言った。「だったら、かれらはいったいなにをしに行くんだ?」
「援軍がくるのを待つのかもしれないぞ」と、サン・アミが無愛想な声でいった。「あなたの話しでは、ネスメイン王国の王子は老呪師をよびよせたわけだし、それにはるばるおれたちを歓迎する料理を運ばせたりもしている。何百キロもはなれた都市とずいぶんかんたんに行き来しているようじゃないか。超音速飛行機でもとばしている可能性があるな。それなら、理由はわかるーーかれらは、その飛行機をむかえるため、目印ののろしでもあげに行くんだろう」
 リュウジ中尉はサン・アミの言い分をじっくり考えてみたかったが、その暇はなかった。とくに、青色ゼナス人の部隊が飛行機をもつほどの文明段階にいたっているのかどうか。
 だが、とにかく行動しなければBeヴェーン号は奪われてしまうのだ。そうなれば自分たちは二度と故郷の星に帰れなくなる。もちろんダシテトマン連合の作戦行動に復帰することなど論外になる。
 リュウジ中尉は意気消沈して、カリグール星人にむかってうなずいた。
「たしかにきみのいうことには一理あるよ。惑星ゼナス・フェーンについては、わたしたちはまだほとんどなにも知らないにひとしいわけだからな」
「では、急いでもどろう」
 サン・アミがうながした。
「いや、待て」
「なにか名案がうかんだか?」
「ここから、Beヴェーン号によびかけてみる。できるかどうかわからんが、念波をおくってエンジンを始動するよう指示してみよう。そして、なろうことなら、彼女の傷ついた船体にはたいへんだろうが、ここまで飛行してくるよう命じてみる。どうかね?」
 サンはなにかいいたげに口ごもった。
 だが、リュウジの顔を一瞥してから黙って同意した。

 念波をおくるリュウジ中尉の脳に、Beヴェーン号からのかすかな返答が感じられた、と、思った瞬間、信号音は言語に変換されて、雷鳴のようにとどろきわたった。
 宇宙船内の操縦席からではなく、船体外からPsiの指令がとどいたので彼女はびっくりして、必要以上につよい返信をしたのである。
〈いますぐに、飛べるか?〉かれは、そっとささやきかけた。
 Beヴェーン号がかれの問いかけに応じた。〈すこし時間をくれれば、なんとか飛んで見せるわ〉
〈ほんのわずかの距離でいいんだ。きみのいるところから北東の方角に三キロメートルのところに大きな規模の廃墟があるーーそこのはずれでわたしは待っている〉
〈ついさっき、傷の手当がおわったのよ。もう、わたしは死ぬことはないわ。あなたは知らなかったでしょうけれど、この惑星に着陸するときわたしの意識はなかったのよ。あなたは不思議な操縦士だわーー着陸はあなた自身の意識でやったことなのよ。あら、でもいまはそんなことをあれこれ言っているひまはないみたいね。分身のエミグラたちがあなたたちを探しにいったから、よほどの窮地にあなたはおちいっていたにちがいないわ。でも、残念なことに、今、わたしは〈根〉をおろしかけたところだったのよーーここの土壌はやせているけれど、飛びたって適当な土地をみつけるよりは楽だと思ったの〉
 リュウジ中尉は彼女が想像以上に深い傷をおっていたことを思い知らされた。
〈きみの船体を占領しに、青色ゼナス人の部隊がそちらにむかっている。エミグラたちは歩けないシン・キドカをはこんで、まわり道をしてきみのところへ帰りつこうとしている。
 だが、惑星ゼナス・フェーンには、戦闘機が存在しているかもしれない。どうやら、ここは、ひどく戦争好きな種族たちがいる星のようだ。むりをいってすまないが、一分以内に飛びたってくれ〉
〈いいわ〉と、Beヴェーン号がけなげにこたえた。
 その返事があってからほどなく、ふたつの月あかりの下、地上すれすれに飛んでくる銀色の宇宙船のすがたをふたりはみとめた。



ジーガの陽の下に 6

書き下ろしヒロイックファンタジーの通し番号6です。惑星セラインラサードに不時着したリュウジ中尉の冒険ものがたり、その掲載を開始いたしました。前回5からの続きをごゆっくりお楽しみください。




ジーガの陽の下に               宮本宗明著



 だが、そうしているあいだにも、騒ぎをききつけた別の見張りが駆けつけてくるかもしれなかった。
 リュウジ中尉はビーム銃をにぎる手に力をこめた。
 そうしながらも、イーリヤという降臨神に思いをはせた。
ーー王子エルトス・カンと呪師の話しでは、と、かれは心のなかで思った。イーリヤというのは不老長寿の恩恵をわけへだてなく与えた恵みの神ではないのかーーだとすると、なぜこの戦士はそのイーリヤを斃そうとするのだろう?
 槍のきっさきがびゅっという音をたてて、リュウジ中尉の頬をかすめた。
 かれはさっと後ろにとびすさった。
「リュウジ中尉! 銃をつかえ! なにをぐずぐずしてるんだ」
 いらいらした口調で、サン・アミが叫んだ。
 かれは背負っていたシン・キドカをどさりと床におろし、ビーム銃を青色ゼナス人の戦士にむかってかまえた。かれは気がみじかいのだ。
 リュウジ中尉は、おちていた槍をひろいあげると、サンの銃をはたきおとした。今では、かれは惑星ゼナス・フェーン流の戦い方に染まっているのだ。銃には銃を、そして長剣には長剣を、槍には槍をなのである。
 かれはおもむろに正面に槍をかまえ、あいての三メートルをこえる戦士と相対した。
 そのときかれの思考には、Beヴェーン号にもどらなければならないことも、エミグラが救援にきてくれたことも、また、自分が宇宙をわける両陣営のひとつダシテトマン連合に所属する宇宙船の操縦士であることも、すべてが存在しなかった。ただ、相手を倒すことしかなかった。
 青色ゼナス人戦士の半球状の淡緑色の眼がくらがりのなかで黄色味をおびてあやしく光りはじめた。そのとたん、かれは唸り声とともに、ものすごいいきおいで槍をくりだしてきた。
 槍の穂先が、リュウジ中尉の首をかすめた。空気のうずがかれの肌をひきさき、血がながれだした。あいてはもっともむずかしい部分、つまり、かれの首に狙いをさだめているようであった。
ーーなぜだろう? と、リュウジ中尉は考えた。
 あいてがふたたび踏みこんできて、こんどは突きではなく、なぎなたのように横にふりまわしている。耳元でびゅっという風切り音がした。
ーーそうか、と、かれは得心がいった。この戦士はケストマン・リトが胸を攻撃して失敗したのをみて、首をねらっているのだーー断ち落とそうというのだろう。その思考の裏には、首と胴体をきりはなしてしまえば、いかに不老不死といえども二度と復活はできまいという確信がひそんでいる。
 今度は目を突いてきた!
 だが、あいての攻撃をよんでいたリュウジ中尉は、軽く上体をそらし、なんなくそれをかわしてしまう。逆に目にもとまらぬ突きをくりだした。だが、青色ゼナス人戦士の胸鎧はばまれ、ガーンという音をたててはじかれてしまう。
「なにをばかなことをやっているんだ」サン・アミが近よってきて、かれにささやいた。サン・アミにしてみれば、惑星ゼナス流の戦い方にしたがっているリュウジ中尉がじれったくてしかたがないのである。
 ジュウドがおちつかなげに大きな首を上下にふり、ふとい前足を動かしはじめた。
「だれかやってくるぞ。はやくかたをつけろ!」
 サン・アミがうながした。
 青色ゼナス人戦士の口が裂けて、仮面が笑っているような不気味な笑い顔になった。かれの攻撃に勢いがついた。
 二度三度と、つづけざまに槍をくりだしてくる。リュウジは必死になって、その下をかいくぐった。そのとき、エミグラがするすると青色ゼナス人戦士の足元にはいよっていった。
 あっという間もなく、かれの姿勢がくずれた。リュウジ中尉は必殺の突きをいれた。きっさきが戦士のかたい甲冑をつらぬいた。
 青色ゼナス人戦士が胸に刺さった槍をつかんだままあおむけに倒れこんでいく。リュウジ中尉はかれの鎧飾りが立派なのに気づいた。そうとう高い地位の戦士なのだろう。突き刺さった槍を抜くと一瞬戦士の目がひらいたが、やがて息絶えた。
 
 泥酔して眠りこけていたシン・キドカが薄目をあけて、呻き声をあげた。サン・アミがだきおこした。
 リュウジ中尉はふたりのカリグール星人を尻目に戦闘荷役獣ジュウドの背中によじのぼろうとした。肩までの高さが三メートルもある大型の荷役獣である。
 背中から前足にむかってたれている硬い甲羅のイボにつかまって、なんとかよじのぼり、背中の蓋をあけた。それはかんたんに開き、かれは勇躍なかにおどりこんだ。
 そのあいだ、岩のように巨大な怪獣はじっとしていた。
 おそらく長い年月をかけて飼いならされてきたのであろう。
 しかし、その背中のくぼみには予期していたような、獣を自由にあやつれる仕掛けはなかった。リュウジ中尉は蓋をあけたまま困惑してすわりこんだ。青色ゼナス人戦士たちは、たしかにこのなかに陣取ってその獣を操縦していたのである。
 かれはやみくもにくぼみを引っ掻いてみた。
 むろん、なんの変化もなかった。
 精神を集中して、ジュウドの思考を読もうとした。かつてリュウジ中尉は銀河系のとある惑星で、凶暴な怪獣の思考を読んだ経験があったのだ。
 だが、なにも感じられない。まるでみえない壁に念波が妨害されているかのようであった。
「どうだ? もう、乗ってもいいか」と、サン・アミが声をかけてきた。
「いや・・・・」リュウジ中尉はあいまいに応えた。
 焦燥感にかられて思考を集中させ、動け、と念波をおくっているのだが、ジュウドはぴくりとも動こうとしない。
 かれの額に汗がにじんだ。
ーーこいつを操れるという自信はあったのだが、と、かれは心のなかで思った。どんな惑星の動物とも交信できるという思いこみは、単なる自信過剰だったというわけか。かれはほろ苦い思いをかみしめた。共生型宇宙船をPsiで操縦できるからといって、この惑星の動物も操れるとはかぎらないのだ。
「おい。はやくしてくれ」サン・アミが催促した。
 リュウジ中尉はとうとうあきらめて、ジュウドの背中からすべりおりた。「だめだ。なにをやっても動かない。こうなっては歩くしかないな」
 二人はすこしのあいだ、うらめしそうな顔で彫像のようなジュウドをながめていた。
「すぐにやつらがやってくる。時間がむだだ。行こう」
 サン・アミが、まだ眠りこけているシン・キドカをかつぎあげようとした。

ジーガの陽の下に 5

書き下ろしヒロイックファンタジーの通し番号5です。惑星セラインラサードに不時着したリュウジ中尉の冒険ものがたり、その掲載を開始いたしました。前回4からの続きをごゆっくりお楽しみください。



ジーガの陽の下に               宮本宗明著




2     青色ゼナス人との取引



 晩餐会がひらかれていたところは、その廃墟のなかでもかなり大きな建物だったようである。リュウジ中尉は、そのなかを彷徨っていた。
 大聖堂をおもわせる円形のうすぐらい通路を、水をもとめて歩いているうち、道に迷ってしまったのだ。
 シン・キドカが酔いつぶれてしまったので、三人はその建物の一室を借りて、とりあえずかれがしらふにもどるまで休んでいることにしたーーそして、苦しんでいるシン・キドカに水をあたえてやろうとしたのだ。
 リュウジ中尉はようやく、明かりがもれているドアをみつけその前でたちどまった。なかにいる者にもどる道を教えてもらえるかもしれない。
 かれはたずさえていた自動翻訳機のスイッチをいれ、部屋の中に入ろうとしてあやうく思いとどまった。
 中からきこえてきた話し声にかれ自身の身体機能にかんすることがふくまれていたからだ。
 そっとドアのすきまから中を覗いてみる。
部屋の中に腰かけているのは、ほかならぬネスメイン王国の王子エルトス・カンで、もうひとりは黒いフードの衣服をまとった老婆であった。
「わざわざ、あなたに来てもらったのは、ほかでもない」とエルトス・カンが老婆に話しかけている。「あの宇宙船で不時着したという三人のうちひとりが、あやまたず降臨神イーリヤであるのかどうか、あなたにおわかりか?」
「王子エルトスよ」と、老婆がしわがれた声でこたえた。その顔は深いフードの陰にかくれて、みることができない。「今から百年の昔、降臨神イーリヤはこの地に降臨してきた。かれらは約三年のあいだ、われらのもとにどとまり、その間さまざまな種族にわけへだてなく不老長寿の秘蹟をわけあたえてくれた。だが、その手技と深遠なる秘密を伝えるものは、今ではほんのひとにぎりの種族になってしまった。われらが呪師とよばれる種族じゃよ。しかし、われらのなかでも、ほんとうの秘密を知っているものは、ごく少数でしかないのだ。かくいう、わたしも不老長寿の奥義をきわめてはおらん。そのくらいだから、わたしがリュウジという異星の男をみたとしても、かれがイーリヤ神であるかどうかは見極めがつくまいて。さてと、いちばんのやり方はかれ自身にまかせてみることじゃよ」
「しかし、リュウジ中尉という異星人は、戦いにやぶれ呼吸も脈も停止してしまい完全に死んだのです。わたしはこの眼でみたのだ」
「まちがいということもありますじゃ」
「だが、・・・・・・」
「もう一度その男を殺してみなさるかの?」
 ネスメイン王国の王子は返答に窮して、口をとざした。
「任せることじゃよ。すべてイーリヤ神のおぼしめしよ」
「ふるまい酒にあの薬をまぜておいたのだが、三人のうちひとりにしか効果がなかった。かれらはたぶん、今夜はここに泊まっていくはず」
「そうか。それならいい考えがある。かれらが眠っているあいだにその宇宙船をネスメインの都ゴートメインに運んでしまうのじゃ。あそこには巨大地下貯水池がある。そこにしずめてしまうといい。かれらは、宇宙船がなければ惑星ゼナスから出てはいけまい。三人はわれらの意のままに動くだろうよーー交換条件としてリュウジという男に三つの聖物をさがさせるのじゃ」
 すると、王子エルトス・カンの眼がきらりと光った。
「つまり、三つの聖物がある場所をさがさせるわけですな。見つけられればリュウジはほんものの降臨神イーリヤの再来という証になる」
「そうじゃ。さすが、ネスメイン王国の若き後継者であらせられる。そうして、リュウジに不老長寿の奇跡をおこなわせるがいい」
 リュウジ中尉は、そこまで聞くとそっと身をひいた。こんな部屋にのこのこはいっていって、道に迷ったなどというわけにはいかない。

 しばらく彷徨っていると、建物の回廊でリュウジ中尉はばったりとサン・アミにであった。
「どうしたんだ」と、かれがリュウジ中尉をさぐるような目つきでじろじろながめた。「仲間が苦しんでいるのだぞ、どこをほっつき歩いていたんだ?」
 リュウジ中尉は、「ありがたい。実は道にまよっていたんだ」といって、かれに部屋まで案内するようにいった。
 その途中で、サン・アミにさっき立ち聞きした内容を話してやった。
 かれは三つの眼を丸くしておどろいた。
「すると、青色ゼナス人のお目当てはあなただったのか! そういえば、あなたにまつわる噂は母国カリグール星でもきいたことがある。心臓が停止してもかならず生き返る男だとか・・・・・。 そうすると、さっきの戦闘のときあなたは一度死んだわけだ。
 ふーん、ちょっとした宇宙の七不思議だな」
「それよりも」とリュウジ中尉は、性急な口調でいった。「青色ゼナス人は、わたしたちがここで眠っている間にBeヴェーン号を乗っ取ろうというつもりだ。どういう方法で宇宙船をかれらの都市まではこぶのかは推測できないが、いずれにせよ、わたしたちは先回りしなければならない」
 サン・アミがうなずいた。「そうだな。しかし、どうやってシン・キドカをBeヴェーン号まで歩かせるかだ」
「だめだ」と、リュウジ中尉は首をふった。「わたしにいい考えがある。まかせておけ」
 話しているあいだにシン・キドカが眠っている部屋にたどりついていた。
 リュウジ中尉は、自分の脱出計画をサン・アミに説明した。じつに単純である。かれがPsiで戦闘荷役獣のジュウドをあやつり、サン・アミがシン・キドカをその背中にのせて落ちないように三キロメートルの距離をささえている、ということだけのことだ。
 だが、実際にジュウドがつながれている中庭におりてみると、それが非常に困難な計画であることがわかった。
 まず第一に、かなり広い中庭には数名の青色ゼナス人の見張りがたっており、しかも、数分おきに別の見張りがどこからかやってきて、異状がないか確認していくのである。
 さらに、肝心のジュウドをリュウジ中尉がうあまくあやつれるかどうかもわからないのだ。
「あのばかでかい獣は、なにかの暗示をうけて動くにちがいないぜ」と、サン・アミがささやいた。「その暗示は念波でおくられているのかもしれないし、あるいは後頭部から肩にかけての硬い甲羅状のふたの下になにか秘密がかくされているのかもしれない」
 かれは、同僚のシン・キドカを背負っていたが、まるで平気な顔をしていた。頑健きわまりない身体なのだ。
 だが、歩いてBeヴェーン号にもどっているあいだに、ネスメイン王国の王子に先をこされてしまうだろうーー宇宙船は乗っ取られてしまうのだ。
 かれらが出発するのはもう時間の問題だったから、ぐずぐずしているわけにはいかなかった。
 リュウジ中尉はビーム銃をぬいた。
「やるぞ」
「用意はいいぜ」
 サン・アミがいって、シン・キドカをそっと大理石の床によこたえた。かれの心配ごとは、仮にここをうまくきりぬけて、戦闘荷役獣ジュウドをつかって逃げだしたとしても、別の見張りがすぐに気づいて、あとを追ってくるのではないか、ということであった。
 だが、かれがビーム銃をかまえ、引き金をしぼろうとしたとき、見張りのひとりがいきなりたおれた。それを見てほかの数名がかけよっていく。
 かれらはやみくもに槍を振り回し、なにかをおいはらっている。ふわふわと白っぽいものが中庭にあふれているのだ。数名の青色ゼナス人はみたこともないものの闖入におどろきあわてふためいているのだ。だが、勇敢にもその繭のようなかたちをしたものに立ち向かっていく。
「おい、あれはエミグラみたいだぞ」
 サン・アミがリュウジ中尉に注意をうながした。
 かれはそれが現れた瞬間にわかっていた。Psi操縦士であるかれの危機意識を感知してBeヴェーン号は傷ついた身体から無数のエミグラを廃墟めがけてはなったのだ。
 リュウジ中尉は自分の知らないあいだにその念波を送っていたのである。
「そうだ、どうやらつきがまわってきたぞ。このあいだにジュウドを操れるかやってみる」
 かれは身をひるがえすと、中庭の戦闘荷役獣めがけて疾駆していく。 
 サン・アミはあわてて同僚を背負うと、エミグラの群れをかきわけてそのあとを追った。
 しかし、青色ゼナス人のひとりがどこをどうきりぬけたのか、リュウジ中尉の姿をみつけると、その行く手にたちふさがった。かれは首から呼子をぶらさげていたから、異状をしらせることができるはずなのに、なぜかそうしなかった。
「待て、イーリヤ!」と戦士が叫んだ。「おまえはおれの手でたおしてやる」
「どけ」とリュウジ中尉は怒鳴った。
 その青色ゼナス人の戦士はBeヴェーン号の前で一騎打ちをしてリュウジ中尉がたおされたとき、首の脈をしらべた男であった。
 そのときからつけねらっていたのかもしれない。不敵な怒りが身体からほとばしっている。エミグラたちが擬手を生やし、かれを押し倒そうとしているのだが、鬼神のような槍さばきに近よれないのである。
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